【破壊力学 III-3】Griffithの式は特別な公式ではない エネルギー解放率 G から自然に導かれる破壊条件

🎯 この記事のゴール

  • Griffithの式がいきなり現れる公式ではないことの理解
  • エネルギー解放率 \(G\) という共通言語による破壊条件の整理
  • 特定の前提条件(無限平板・線形弾性など)と式の関係の把握

破壊力学を学んだことがある人なら、Griffithの式という名前を一度は聞いたことがあるはずです。

\[ \sigma = \sqrt{\frac{2\gamma E}{\pi a}} \]

この式は、どこか「完成された公式」「暗記すべき結果」のように扱われがちです。しかし、前回までの議論を丁寧に追ってきた私たちなら、ここで気づくはずです。

「この式は、いきなり現れるものではない」

本記事では、エネルギー解放率 \(G\)という共通言語を使って、Griffithの式がどのような位置づけにあるのかを整理します。

本記事は、小林英男先生著『破壊力学』第3章を参考にしつつ、筆者の理解で再構成した解説です。


1. まず確認:エネルギー解放率による一般的な破壊条件

第1回・第2回で導いた結論を、ここで一度まとめておきます。

き裂が進展を開始する条件は、

\[ G \ge \frac{dW}{da} \]

で表されます。

  • \(G\):き裂が単位長さだけ伸びたときにき裂に与えられるエネルギー
  • \(\frac{dW}{da}\):き裂が単位長さ伸びることで必要となる表面エネルギーの増加率

この不等式は、負荷方式や試験機の剛性に依存しない、非常に一般性の高い破壊条件です。


2. Griffithが設定した「特定の条件」

Griffithの式は、この一般条件に、さらに具体的な前提条件を与えた場合の結果です。

Griffithが1920年に考えた問題設定は、次のようなものでした。

  • 材料:線形弾性体(塑性変形しない架空の材料)
  • 試験片:2次元無限平板
  • 応力状態:平面応力
  • 負荷方式:固定把み(無限遠一様引張)

ここで重要なのは、Griffithは“万能な公式”を作ろうとしたわけではない、という点です。彼は、あくまで限定された条件のもとで、破壊が起こるかどうかを考えました。


3. き裂があると、どれだけ弾性エネルギーが解放されるか

まず、き裂のない無限平板に一様応力 \(\sigma\) を加えた場合を考えます。このとき、単位面積あたりの弾性ひずみエネルギーは

\[ \frac{\sigma^2}{2E} \]

次に、長さ \(2a\) のき裂が存在すると仮定します。き裂の周囲では応力が解放されるため、その分だけ弾性ひずみエネルギーが減少します。

直感的には、直径 \(2a\) の円領域で応力が解放されると近似できます。この近似を用いると、解放される弾性ひずみエネルギー U

\[ U = \frac{\sigma^2}{2E} \cdot \pi a^2 \]

ただし、実際に応力場を厳密に積分すると、この2倍のエネルギーが解放されることが知られています。その結果、

\[ U = \frac{\pi a^2 \sigma^2}{E} \]

4. エネルギー解放率Gで整理する

ここで、第2回で定義したエネルギー解放率 G を用います。この問題設定では、負荷方式が固定把みなので、外力のした仕事はゼロです。したがって、

\[ G = \frac{dU}{da} \]

上式を微分すると、

\[ G = \frac{2\pi a \sigma^2}{E} \]

が得られます。


5. 表面エネルギーと破壊条件

一方、き裂が進展することで新しく生まれる破面には、表面エネルギーが必要です。

単位面積あたりの表面エネルギーを \(\gamma\) とすると、長さ \(2a\) のき裂がもつ全表面エネルギー W

\[ W = 4a\gamma \]

したがって、単位き裂長さあたりの表面エネルギー増加率は

\[ \frac{dW}{da} = 4\gamma \]

となります。これを、一般的な破壊条件 \( G \ge \frac{dW}{da} \) に代入すると、

\[ \frac{2\pi a \sigma^2}{E} \ge 4\gamma \]

が得られます。


6. Griffithの式が現れる瞬間

上式を応力 \(\sigma\) について解くと、

\[ \sigma \ge \sqrt{\frac{2\gamma E}{\pi a}} \]

となります。これがGriffithの式です。

ここまで追ってくると、この式が突然出てきたものではない、エネルギー解放率という一般理論の特殊解であるという位置づけであることが、はっきりします。

■■補足■■
一般理論:エネルギー解放率とは、材料にき裂が入って進むときにどれくらいエネルギーが放出されるかを表す一般的なルール
特殊解:無限に広い板の真ん中に、まっすぐなき裂が1つだけあって、それを上下に均等に引っ張っているという特殊な条件での式

7. 「Griffithの式は特別ではない」という意味

ここで強調しておきたいのは、次の点です。

Griffithの式は、破壊力学の出発点ではなく、途中経過の一つにすぎない

材料・応力状態・負荷方式を変えれば、G の具体的な表式は変わります。しかし、G と表面エネルギーを比べる」という考え方自体は変わりません。

この視点を持っていると、Griffithの式を暗記する必要はなくなります。必要なのは、どの条件で、どの G を使うかを考えることであり、その結果として周囲と共通言語で話ができる、ということです。

🚀 8. 第3回のまとめ

  • 一般的な破壊条件は \( G \ge dW/da \) である。
  • Griffithの式は、この条件に特定の仮定を入れた結果である。
  • Griffithの式は万能な公式ではない
  • 破壊力学の本質はエネルギー解放率で考えることである。

9. 第2回のまとめ(次回予告:第4回)

次回は、ここまでの議論に重要な補足をしていきます。

エネルギー条件を満たしているにもかかわらず、実際にはき裂が進展しない場合がある。それはなぜか?

キーワードはき裂先端の曲率半径Griffithき裂です。

参考・注意

本記事は小林英男先生著『破壊力学』(第3章「エネルギ解放率」)を参考に、理解促進を目的として内容を整理・解釈し、筆者の理解と言葉で再構成した解説記事です。厳密な定義・導出・図表については、必ず原著をご参照ください。

ひかるエンジニア養成所 管理人

TEKTO @ 匠人

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