図面が形になる瞬間は、設計者の緊張の瞬間
前回は「部品表と手配」で、設計を現場につなぐ話をしました。
今回のテーマは、いよいよ設計の集大成
――検査と組立です。
図面が形になる瞬間は、設計者にとって緊張の瞬間でもあります。
どれだけ経験を積んでも、組立の初日はいつもドキドキします。
組立の現実――図面どおりにならない理由
若手時代、私は「図面どおりに作ればピッタリ合う」と信じていました。しかし、実際には図面どおりにならないことのほうが多いのです。その理由はさまざまです。
* 材料の熱膨張や収縮
* 加工誤差の積み重ね
* 溶接による変形
* 組立順序の違い
例えば、鉄のタンクを溶接で組むと、冷めるときに数mm縮みます。
図面の数字は正しくても、現物は生き物のように変わるのです。
この現実を理解することが、設計者としての成長につながります。
検査とは、“図面の意図を確認する作業”
検査というと「寸法が合っているかを測る」だけだと思われがちですが、本質はそれだけではありません。
検査とは、“設計者の意図が現場に伝わっているかを確かめる作業”です。
例えば、あるボルト穴の位置が1mmズレていたとしても、そのズレが安全性や機能に影響しなければ「合格」となります。
つまり、検査では単なる数値ではなく、設計目的を理解して判断する力が求められます。
現場と設計者が“同じゴールを見ているか”
――そこが、品質の分かれ目なのです。
圧力鍋で考える「誤差の積み重ね」
圧力鍋を例に考えてみましょう。
フタと本体の接触面がわずかにズレていると、圧力が逃げてしまいます。
逆に、きつすぎると開閉ができません。
1mmどころか、0.1mmのズレでも安全性に影響します。
それぞれの部品が“ほんの少し”ずつズレても、全体で見ると歪みやガタつきが生まれます。
これが、現場でよく言う「誤差の積み重ね」です。
設計の数字が1つずつ正しくても、全体としてズレることがあるのです。
(これを計算するには『ガウスの誤差伝播の法則』というものを使います。)
組立性設計(DFMA)という考え方
DFMA(Design for Manufacturing and Assembly)は、近年の製造業で重要視される設計思想です。
これは、「部品点数を減らし、組立を簡単にする設計」を意味します。
例えば、圧力鍋の取っ手を例にすると、ネジで2つの部品を留めるよりも、はめ込み式にすれば組立が早く、ミスも減ります。
部品が減れば、在庫管理もシンプルになり、コストも下がります。
「作る人が迷わない設計」=良い設計なのです。
設計は「自分が作る仕事」ではなく、「誰かが作る仕事を設計する仕事」。こ
の視点を持つと、図面の描き方が変わります。
“現物合わせ”の現場から学んだこと
ある大型容器の組立現場で、私は衝撃的な光景を見ました。
作業員が、ハンマーで配管の曲げを微調整しながらフランジにボルトを通していたのです。
「図面と違う!」と最初は焦りましたが、その職人の手元を見ていて気づきました。
「図面を現実に合わせてくれているんだ。」
設計者が“理想を描く人”なら、製造現場は“理想を形にする人”。
そして、本当の設計者は、現場と一緒に理想を磨く人です。
現場で学んだことは、次の設計に必ず活きます。
「この部品は組みにくかった」
「この寸法は厳しかった」
――そうした声を設計に反映することが、成長の一番の近道です。
まとめ:図面を超えて“現場と一緒に設計する”力
検査と組立は、設計の“卒業試験”のようなものです。
図面どおりに組めるかどうか、設計者としての考え方が問われます。
しかし、もし現場でズレがあっても、それは失敗ではありません。
むしろ、そこから「図面の外にある真実」を学ぶチャンスです。
設計の仕事は、現場とともに育つ。
紙の上で完結する仕事ではなく、“人の手と頭が動いて、初めて完成する仕事”です。
次回は、「試作と評価 ― 設計の答え合わせ」をテーマに、実験や検証で“設計を科学する”ステップを一緒に見ていきましょう。
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さむらいすけ


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