本記事は、企業で機械・構造設計、材料選定、評価試験、品質保証に携わる方向けに、破壊力学の「最初の一歩」を整理したものです。
小林英男先生著『破壊力学』第1章を参考に、筆者の理解と言葉で要点を再構成しました。
🎯 この記事のゴール
- 破壊力学が「欠陥・き裂を前提にした強度評価」である理由の理解
- 理想的破壊強度(ideal fracture strength)の物理的意味の把握
- 「なぜカタログ強度だけでは不十分か?」への理論的回答
1. 破壊力学は何を解決したいのか
現場の破壊トラブルは、単純な応力計算(σ = P / A)だけでは説明できません。
「強度は足りているはずなのに、なぜか溶接部から割れた…」
破壊力学は、材料内の欠陥やき裂を「最初からあるもの」として扱い、その寿命や安全性を合理的に見積もるための学問です。その根底には、「固体が壊れるとは結局何なのか」という物理的理解があります。
2. 破壊の最小単位は「原子面の分離」
破壊を極限までミクロに見れば、それは原子面(原子面間)の分離に他なりません。原子同士を繋ぎ止める「凝集力」を外力が上回った瞬間に破壊が起こります。
凝集応力 σ を正弦波で近似すると、最大凝集応力(理想強度) σ₀ は以下の関係式で導かれます。
σ = σ₀ sin( 2πu / λ )
3. 理想的破壊強度とは何か
欠陥のない理想的な結晶を引き離すために必要な強度は、表面エネルギー γ を用いてこう表されます。
σ₀ =√( γ E / a₀ )
実務者が押さえるべきポイント
| 要因 | 影響 |
|---|---|
| 弾性率 (E) ↑ | 理想強度は上がる |
| 表面エネルギー (γ) ↑ | 理想強度は上がる |
| 原子面間隔 (a0) ↑ | 理想強度は下がる |
💡 スケール感
σ₀ ≃ E / 10
理想結晶であっても、強度は弾性率の1/10程度の桁になる
この「スケール感」が重要です。
4. 延性・脆性の本質は「分離」か「すべり」か
材料が脆いか粘いかは、引張分離(σ₀)とすべり(τ₀)のどちらが先に起こるかで決まります。
脆性破壊
σ₀ / τ₀ ≪ 1
すべる(せん断)前に原子面が引き離され、「パカッ」と割れる。
延性破壊
σ₀ / τ₀ ≫ 1
割れる(引張分離)前に原子がすべり、「ヌルッ」と変形する。

図1.1:延性/脆性の破壊分類
5. 結晶構造と設計の繋がり
原子面間隔 a₀ は格子面(方位)ごとに異なります。
つまり、「結晶方位が違えば理想強度 σ₀ も変わる」ということです。

図1.2:結晶構造と格子面
これが実務における「加工方向による強度の違い(異方性)」を理解する基礎となります。
🚀 今回のまとめ
- ✔ 破壊の最小単位は原子面の分離である。
- ✔ 理想強度のスケールは σ₀ ≃ E / 10 である。
- ✔ 延性・脆性は、引張分離とすべり(せん断分離)の先行競争で決まる。
NEXT:第2回 予告
なぜ現実の材料は、この“理想の世界”よりも、簡単に壊れてしまうのか?
キーワードは「欠陥」と「局所破壊」。現実の設計を支配する「弱点」の正体に迫ります。

図1.3:理想破壊のイメージ
参考:小林英男『破壊力学』共立出版
ひかるエンジニア養成所 管理人
TEKTO @ 匠人

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