設計レビューは「守りの会議」ではなく「成長の場」
前回は「設計品質と信頼性」で、“壊れないを設計する”というテーマをお話ししました。今回は少し趣を変えて、私自身の設計レビューでの失敗談をお話ししたいと思います。設計レビューは、ただのチェックリストではなく、成長のための貴重な場です。若手のころ、私はこの重要性を理解していませんでしたが、今ではその価値を深く実感しています。
若手時代の失敗談:見逃した“たった一つの穴”
入社三年目、ある圧力容器の設計を任されました。
外径2メートル、板厚10ミリ。
初めての本格的な圧力設計で、強度計算も完璧だと思っていました。
しかし、レビューでの指摘が私を打ちのめしました。
「このボルト、組立後に工具入る?」という一言。
設計上は機能しているものの、実際には組み立てられないという致命的な見落としでした。
この経験から、設計は机上の理論だけではなく、現場での実用性を考慮する必要があると痛感しました。
レビューでの指摘――その場では理解できなかった一言
レビュー後、ベテランの方が言った言葉が心に残っています。
「図面は机の上じゃなく、現場の上に広げるもんだよ。」
その時は理解できませんでしたが、数週間後、組立現場でその意味を実感することになります。
現場でのトラブルと、冷や汗の一日
製造が進み、ついに容器の組立が始まりました。
案の定、工具が入らないというトラブルが発生。
配管や板がジャマして、レンチが回らないのです。
その瞬間、背中に冷たい汗が流れました。
現場の職人さんたちは苦笑いしながら特注の工具を急きょ加工してくれました。
「なんとかなる」では現場は動かない。
これを機に、私は“図面の先にいる人”を強く意識するようになりました。
学び:レビューは「自分の考えを他人に翻訳する訓練」
設計レビューで大事なのは、「正しいかどうか」だけではありません。
自分の考えを他人に伝わる言葉にできるかどうかが重要です。
図面は設計者の頭の中を“翻訳したもの”です。
レビューは自分の思考を他人に理解してもらう練習の場でもあります。
そのために私は、レビュー前に以下の準備をするようになりました。
なぜその構造にしたのか、3行で説明できるようにする
想定した使用条件を、イラストや模型で示す
「ここを一番見てほしい」と自分から先に言う
完璧を装うより、「一緒に考えてほしい」と伝えるほうが、レビューは何倍も建設的になります。
圧力鍋に見る“見落とし”の怖さ
圧力鍋の設計で、安全弁の向きをほんの少し間違えただけで、吹き出した蒸気が取っ手にかかり、やけどの危険を生むことがあります。
「設計上はOK」でも、「使うとNG」。
図面と現実のズレは、1センチの見落としが命取りになる。
だからこそ、レビューでの「気づき」は本当に尊いのです。
まとめ:失敗は恥じゃない、黙って通すことが恥だ
冒頭に紹介した現場のトラブル以来、私はレビューで指摘を受けることが怖くなくなりました。
むしろ、「気づいてもらえて、ラッキー!」だと思うようになりました。
若手の皆さん、レビューで厳しい意見をもらったら、それはあなたの設計が“本気で見られている”証拠です。
設計レビューとは、あなた一人の図面を、みんなの知恵で守る場所。
失敗は恥ではありません。
本当の恥は、指摘を避けて通すことです。
図面の線一本に“人の命”や“現場の努力”が乗っている
――そのことを忘れず、次のレビューに臨んでほしいと思います。
次回は、「設計の未来 ― AIとエンジニアの新しい役割」をテーマに、これからの設計者がどんな価値を発揮できるかを語ります。
今回もブログを読んでいただきありがとうございました。
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経験から培った知識と知恵をここに記していきます。
引き続きよろしくお願いいたします。
さむらいすけ


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