設計者の仕事はなくならない、ただ“変わる”だけ
長かったこの連載も、いよいよ最終回です。
今回は少し未来の話
――「AIとエンジニアの新しい関係」について語りたいと思います。
最近、若手からよく聞かれる質問があります。
「AIが発達したら、設計の仕事ってなくなるんですか?」
私はいつもこう答えます。
「なくならない。ただ、やり方が変わるだけだ。」
かつて製図板からCADに変わったように、今はAIが“思考を補助する時代”になりました。
道具が進化しても、“考える責任”は人間に残ります。
設計とは、「何を作るか」ではなく、「なぜそれを作るか」を考える仕事。
AIが答えを出してくれる時代だからこそ、人間は“問いを立てる力”が問われるのです。
AI時代の設計――ChatGPTやシミュレーションがもたらす進化
今や設計の世界でも、AIやデジタルツインが当たり前になりつつあります。
ChatGPTのような対話型AIは、計算式の確認、材料選定のヒント、さらには特許調査の整理などにも使える時代です。
たとえば、以前はエクセルで何日もかけていた「安全率の検討」も、AIなら一瞬で複数パターンを比較できる。
シミュレーションツール(CAE)は、形状を自動で最適化してくれるのです。
つまりAIは、「計算」や「最適化」が得意な相棒なのです。
一方で、人間が苦手な“単純で膨大な作業”を引き受けてくれる。
そのおかげで、設計者は「考える時間」を取り戻せるのです。
圧力鍋で考える「AIが得意な領域」
圧力鍋の設計を例にしてみましょう。
鍋の厚さや材質、圧力弁の径
――こうした要素を変えると、安全性・重量・コストがどう変化するか、AIなら瞬時にシミュレーションできます。
AIは「条件を変えて最適解を探す作業」が得意です。
しかし、「この圧力鍋を使うのはどんな家庭か?」
「誰が安全に使えるか?」
といった“人を想う設計”は、AIにはまだ難しいのです。
自転車でも同じ。
フレームの強度や軽量化はAIが提案できても、
「子どもと一緒に乗る楽しさ」や
「坂道での心地よさ」は、人間の経験と想像力からしか生まれません。
人間にしかできない“設計の直感”とは何か
私は長年設計をしてきて、こう思います。
「良い設計は、計算だけでは生まれない。」
もちろん理論は大事ですが、最終的な判断を左右するのは、経験からくる“勘”や“違和感”です。
図面を見たときに、「なんだかバランスが悪いな」と感じる。
試作を見た瞬間に、「この構造は現場が困りそうだな」と察する。
この“直感”はAIにはありません。
AIは「正解」を出せるけれど、「納得感のある答え」を出せるのは、人間だけです。
AIと人間のチーム設計:共存ではなく“共創”へ
AIと人間の関係を「競争」ではなく「共創」と考えることが大切です。
AIは“道具”ではなく“同僚”。
私たちが方向性を示し、AIがそれを裏付ける。
お互いの得意を掛け合わせることで、設計の幅は無限に広がります。
最近感じるのは、AIとのやり取りは「後輩に教える感覚」に似ていること。
明確に質問すれば的確に返してくれるし、質問が曖昧だとズレた答えが返ってくる。
AIを使いこなすほどに、自分の考え方も整理されていく。
これこそ、AI時代の“成長のかたち”なのかもしれません。
若手エンジニアへのメッセージ:ツールを使う人間こそが価値を生む
AIが設計を支援する時代に、エンジニアが持つべき力はなんでしょうか?
それは、「ツールを使いこなす力と、人を想う力」です。
どんなに優秀なAIでも、目的を与えるのは人間です。
AIが出した答えをそのまま採用するのではなく、「この設計で、人は本当に幸せになるか?」と考えられる人が、これからの設計者として求められるのです。
若手の皆さん、AIを怖がらずに使ってみてください。
AIは、あなたの仕事を奪う存在ではなく、あなたの思考を磨く鏡です。
まとめ:技術の先にあるのは、“人を想う設計”
設計技術は、これからも進化し続けます。
AI、シミュレーション、デジタルツイン、量子計算機
――どんな技術が登場しても、変わらないことが一つあります。
それは、設計の根っこには“人”がいるということです。
圧力容器の設計も、最終的な目的は「誰かの役に立つ」こと。
AIが進化しても、その“想い”を形にするのは人間の仕事です。
設計の未来とは、人とAIが手を取り合い、「より安全に、より美しく、より幸せに」モノを生み出す時代。
私もまだ学びの途中です。
しかし一つだけ確信しています
――“心のある設計者”の価値は、どんな時代でも消えない。
今回もブログを読んでいただきありがとうございました。
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経験から培った知識と知恵をここに記していきます。
引き続きよろしくお願いいたします。
さむらいすけ

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