今回は「新しい技術に挑戦するワクワク感」についてお話しします。
未来の技術と聞くと、水素エネルギーの活用やカーボンニュートラル、宇宙開発といった言葉が浮かぶかもしれません。
ちょっと遠い世界に思えるでしょう。
でも実は、皆さんがこれから歩むエンジニアのキャリアの延長線上にしっかりと存在しているのです。
若手時代の冷や汗:水素輸送用容器の試験での失敗
まずは私自身の失敗談から。
若手の頃、初めて水素貯蔵の輸送用容器の設計を任されました。
ペットボトルの炭酸ガスの約700倍という高圧に耐える容器です。
計算書も完璧、図面も仕上げたつもりで製品が完成し、迎えた試験当日。
容器に輸送時を模擬した振動を少しずつ与えていったところ、配管が微妙に振動し始め、計器の針がチラチラ揺れる。
やがて配管の振動はどんどん大きくなり、現場がざわつき、私は頭の中が真っ白になりました。
「こっ、壊れるっっ! 」
試験は瞬時に停止され、すぐに中断・設計見直し。。。
開発スケジュールはどんどん遅れて、大混乱。
不安で、辛くて、叱られて。眠れない日々を過ごしました・・・
原因は机上の計算では見落としがちな「共振」。
配管の取り回しや締結剛性など、現場ならではの条件が影響していたのです。
この経験から学んだのは、「図面や数式は正しくても、それだけでは不十分」ということ。
現場の音や揺れ、作業環境まで含めて“設計”は成り立ちます。
失敗はつらいですが、そこから得た学びは今でも自分の武器です。
自分の設計したものを多くの人からあらゆる観点でチェックしてもらう、
DR:デザインレビューが必要なのです。
小さな工夫が社会を動かす:カーボンニュートラルの現場
次にカーボンニュートラルに関わる話をしましょう
水素エネルギー活用もカーボンニュートラルの一環ではありますが、CO2排出量削減について。
あるプラント設備で、私は空気と燃料の混ぜ方や熱の回収効率を少し工夫しました。
ほんの数十センチ配管を動かし、部品の配置を見直しただけです。
しかしその小さな変更が、プラント全体で見るとエネルギーの無駄を大きく減らし、社会的にも意味のあるCO₂削減につながりました。
役員会でその結果を説明したとき、「現場のアイデアが社会課題の解決に直結する」という実感が強く残りました。
学生の皆さんにとっては、部活動で練習メニューを一工夫したらチーム全体の成績が上がった、そんな経験に近いかもしれません。
もちろん、私はいつも成功してきたわけではありません。
若手時代にはコスト削減だけを優先し、後から環境性能の不足を指摘され、追加改造でかえってコストが膨らんだこともありました。
そのとき痛感したのは、「目先の数字」より「長期的な社会的価値」を見据える大切さです。
数式と図面は世界共通語
さらに視野を広げましょう。
私は海外のチームと燃料タンクの設計をした経験があります。
高温・高圧という過酷な条件。
英語が飛び交う会議で、私のノートは数式と簡単な断面図だらけでした。
言葉は違っても、応力や伝熱の式、図面を見せると一気に議論が進む。
数式と図面は、国境を越える最強の共通語なのです。
ゲームでいえば、どの国でも同じルールで遊べるスポーツのようなもの。
これを体感できたのは、エンジニアとして本当に貴重な経験でした。
ただし、ここでも失敗がありました。
仕様の解釈にチームごとで差があり、さらに使用する単位も違って、勘違いも生まれてしまい、試作部品が一度やり直しになったのです。
例えば、私たち日本人が使うトン(Ton)と、アメリカ人が使うトン(US Ton)では重量が違うことを皆さんはご存知ですか?
アメリカ人エンジニアと部材の必要重量について、十分な打ち合わせをして、
当日、ものをみたら重量が足りない。
大混乱でした。。。
そのため、私はあらゆる業務において、「 言葉で確認→図で再確認→数字と単位でさらに確認し、その後、試験で最終確認」という段階を徹底するようにしました。
設計は技術であると同時に、コミュニケーションの積み重ねでもあります。
これから機械設計に挑戦する方々へのメッセージ
ここまで読んで「失敗ばかりだな」と思った方もいるかもしれません。
実際その通りです笑。
でも失敗は「未定義動作」ではなく「学習データ」。
ゲームで経験値を積むように、やり直すたびに設計者として強くなれるのです。
皆さんに伝えたいのは、次の3つです。
1. 「なぜ?」を問い続ける
仕様や材料を決めるとき、必ず「なぜそれを選ぶのか」と3回問い直してください。
答えの深さが、そのまま設計の強さになります。
最近、イーロン・マスクさんの伝記を読みましたが、彼はエンジニアを真夜中に呼び出し、
「なぜ、ボルトが6つも必要なんだ?4つではいけないのか?」と問いただし、
明確な答えをしなかったので、クビにしたというエピソードがありました。
苛烈なやり方ではありますが、その精神はまさにエンジニアの真髄であると思いました。
エンジニアにとって、「なんとなく、適当に」は、許されません。
2. 現場で五感を使う
振動の音や手触り、匂いなど、五感は最速のセンサーです。
計器だけでは見えない真実があります。
3. 図と試験で合意する
言葉のズレは図で解決し、図の仮説は計算と試験で確める。
これを繰り返すことで、設計は確実に前進します。
まとめ
水素エネルギーやカーボンニュートラル。
どれも未来をつくる大きなテーマですが、その入口は意外と身近です。
1枚の図面、1行の計算、1回の会話。
その積み重ねがやがて社会を動かす。
新しい技術に挑戦するワクワクは、待っていてもやってきません。
自分の手を動かし、現場に足を運び、小さな工夫を積み重ねて初めて味わえるものです。
さあ、皆さんもぜひ一歩を踏み出してください。


コメント