前回までで、応力拡大係数 K を使えば、き裂先端の状態を共通の物差しで評価できることを見てきました。
今回は、実務で必ず直面する「荷重が重なった場合に K をどう扱うか」という問いに、重ね合わせの原理の視点から答えます。
実際の構造物では、荷重は一種類ではありません。内圧、曲げ、熱応力、残留応力が同時に作用している場合、K はどう計算すればよいのでしょうか?
1. なぜ「足し算」が許されるのか
破壊力学で扱っている応力場は、基本的に弾性範囲のものです。弾性問題には以下の性質があります。
- 荷重に比例して変形・応力が増減する
- 複数の荷重を同時に与えた結果は、それぞれを単独で与えた結果の和になる
これが重ね合わせの原理です。破壊力学では、この考え方を応力拡大係数にも適用します。
2. 同じモードなら、Kは足し算できる
き裂の変位様式(モード)が同じ場合、応力拡大係数は荷重ごとに計算し、最後に足し合わせることができます。
ここで、K1 は内圧、K2 は曲げ、K3 は残留応力による係数を指します。

この考え方は、圧力容器、配管、溶接構造など、実機構造の評価で頻繁に使われます。
3. 膜応力と曲げ応力を分けて考える
実務でよく使われるのが、膜応力と曲げ応力を分ける整理です。たとえば圧力容器では、断面に一様に分布する膜応力と、肉厚方向に勾配を持つ曲げ応力が同時に存在します。
このように、膜応力(σm)と曲げ応力(σb)に対する K を別々に計算し加算します。ピーク応力は、き裂が十分大きい場合には K の評価には直接使わない点も実務上重要です。

4. 残留応力もKとして扱える(重み関数)
溶接などで生じる残留応力も、応力分布として存在する以上、K に変換できると考えます。その考え方を整理したものが重み関数です。
この式の本質は、「き裂がなかったときの応力分布 \( \sigma(x) \) から、Kを計算する」という点にあります。
5. 技術者が注意すべき点
重ね合わせの原理は非常に便利ですが、万能ではありません。以下の点に注意が必要です。
- 塑性変形が支配的な場合には使えない
- モードが異なる K は単純に足せない
- 接触やき裂閉口がある場合は線形性が崩れるため別途検討が必要
🚀 今回のまとめ
- ✔ 破壊力学の K は、弾性範囲であれば重ね合わせが可能である。
- ✔ 実務では膜応力、曲げ応力、残留応力を個別に計算して足し合わせる。
- ✔ 重み関数を使えば、き裂がない状態の応力分布から K を導ける。
ひかるエンジニア養成所 管理人
TEKTO @ 匠人

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